津次郎

映画の感想+ブログ

見るより感じる アデル、ブルーは熱い色 (2013年製作の映画)

5.0
レビューするのが陳腐に思える。解釈するより感じる映画。これまで持っていた映画の定義をくつがえす体験でした。

はじめから終わりまで近いカメラがアデルの表情を追う。が、演技の気配がない。いつしか自分も映画を見ていることを忘れアデルを追う。映画から映画の気配が消えている。

兎っ歯、半開きの口唇、伸びやかな肢体、無造作なひっつめ髪、幼さをのこしたほほ、鮮やかなふたえ。笑ったとき口端による小皺、ノーメイク。あらがいようのない魅力のアデル。

無意識。素としか思えない。
手の甲でミートソースを無造作に拭う。ケパブを食べながら話し指をなめる。トマと別れて泣き崩れる。怖じ怖じしながら初めてゲイバーへ入る。デモに参加して絶叫する。愛しそうにエマを見る。エマと激しく求め合う。エマと痴話げんかして号泣する。今にも泣き出しそうにしながら園児と踊る。悪夢を見る。焦がれて泣く。また泣く。
一つ一つあげるのも、もどかしいが、すべてドキュメント、色づけなし、地のアデル。

カメラと役者、監督と役者、その間にどんな魔法があるのかわからない。
アデルとエマの色恋の顛末が、なんのフィルターも置かずに、繰り広げられる。
いったい、どんな撮影/指導をしているのだろう。クスクス粒のHafsia Herziも素にしか見えなかった。

恋する。食べる。しゃべる。おどる。セックスをする。キスをする。泣く。衝動的。奔放。無我で欲求をつくすアデルがまぶしい。絡みも必然的。映画で必然性のあるセックスシーンを見たのははじめて。かつ少しもエロくない。

演出も演技も脚本も、あらゆる映画的手法が見えないのに、近接カメラだけで、しっかりとアデルの恋と成長が描かれている。五点満点超過。息もできないほど素晴らしかった。