津次郎

映画の感想+ブログ

マッチングアプリ サムバディ (2022年製作のドラマ)

サムバディ

4.0
状況に対して、さまざまな心象があると思う。

悲しいとき悲しいだけじゃないし、楽しいとき楽しいとはかぎらない。

むかしきいたことがある彦一とんち話というのがある。まえにも書いたことがあるが──

怖くて可笑しくて悲しい話をせがまれた彦一は「あるところに鬼が出ておならをして死んでしまいました」と話した。
話された人が苦情を言うと、彦一は「鬼が出たら怖いだろ、おならをしたら可笑しいだろ、死んでしまえば悲しいじゃないか」と開き直った。

この話の骨子はひとの複雑な心象を無視して聞き手をばかにすること。
カスタマをばかにしたようなプロダクト全般に援用できる。
なので日本映画/ドラマをけなしたいとき使っているw。

ひとはそれぞれ複合的な思いをもっている。

おにがでたら笑うかもしれない。
おならをしたら怒るかもしれない。
しんだらよろこぶかもしれない。

映画やドラマに出てくるひとはそのような変調があったほうがおもむきがでる。

ただし意外にしすぎると奇をてらう感じが出てしっぱいする。

たんじゅんでなく、奇をてらってもなく、個性的な人物像をつくる。クリエイターの仕事だと思う。

──

出会い系でひどい目に遭って復讐する話。

顧みるとシンプルな話だが雰囲気はまるでスパイクジョーンズのHerかチャーリーカウフマンを見ているよう。

登場人物がみな特長的外観と複層の心象とをもっている。

サイコパスの殺人鬼ソンユンオ。キムソムはアスペルガー症候群だがチャットおよびソーシャルコネクトのプログラミングの天才。モクウォンはシャーマンでレズビアン。ヨンギウンは対麻痺を患っている車椅子の警察官。──多様性。

どんなしごとをしているのか、どんな外観をするのか、なににこだわるのか、弱みと強みを描写して人物を作り込む。表情をとらえ複合的な心象を表現する。

くわえてテレビシリーズらしからぬカメラワーク、調度が白備えされたキムソムのオフィス、荒涼・雑然とした街街と相対する透明なカンヘリム、踏み込んだ性描写、ハイテクとシャーマニズム、叙情な空気を乱す残虐性、日本のクリエイターがさかだちしたってこんなのつくれないし、結論としてやっぱすげえ韓国コンテンツてことだった。

企画と監督はユヨルの音楽アルバムをつくったチョン・ジウ。主演のキムゴウンとともによくおぼえていた。カメラと心象描写と音楽を自在にあやつる使い手だった。

──

話のあらましは、キムソムの開発したマッチングアプリSomebodyは双方がチャットで言い止めたことをデータから複合判断できるディープラーニングなマッチングアプリだった。で、拾えない人格をも拾えるアプリなので、アスペルガー症候群のキムソムの心にサイコパスのユンオが感応してしまった。特殊なふたりは特殊ゆえに通じ合えた。が、それは彼女の根っこに殺人鬼の気質があったからでもある。キムソムは開発者の責務から殺人鬼ユンオをやっつける。・・・。──というかんじ、だと思う。

都心の駅周辺でマッチングアプリによるキャッチに注意をうながす放送がかかっている。会うとぼったくりのお店へ誘導されるという亜流美人局がはやっている──と放送は言っていた。
Somebodyは匿名性と即応性の高いアプリでこれから会えるという人を位置情報から見つけてマッチする。危険なツールだがこういったツールの謳いで使われる言葉は甘い。“赤い糸”のようなロマンチックな言葉で釣られた先にいるのはなりすましのおっさんかマルチ商法の窓口かどこからともなく彼氏がでてくるベイト嬢だ。
ドラマサムバディはその光と闇を描いていた。

大振りの金属フレームの見た目が歪んだ殺人鬼ユンオのキャラクター造形にすこぶる生きていた。