津次郎

映画の感想+ブログ

人生賛歌 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス (2022年製作の映画)

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4.3

なんの取り柄もないエヴリン。
つぶれかけたコインランドリーを経営する華僑。

そんな彼女のところへ並行世界の優位次元から使者がやってくる。
使者は唐突にあなたこそユニバースの救世主だと説いて戦いがはじまる。

スパイダーマンノーウェイホームみたいなマルチバース構造、だがヒーローではなく一般人(な見た目の登場人物たち)が過去と未来と次元を超え死闘を繰り広げる。

意識が見た目をつくることで何でもありな圧倒のビジュアル、
次元間ジャンプの仕様が“ぜったいやらないような変なことをする”──ゆえのコミカルなムード、
そこにカンフーアクションが加わってカラフルで騒々しい。

が、特異な方法を使いながら、エブエブは家族のことを描いている。
装飾をとってしまうと、すがすがしい母娘の物語になっていた。

逆から言うと、反抗期の娘が紆余曲折を経て母と和解した──という普遍的な家庭ドラマに、余分なアイデアや枝葉をつけまくって、奇想天外なフィクションにしている。

それゆえ、見たこともないアイデアに呑まれていたら、お終いに思いがけない感動にいきついてしまった──という感じになる。

基調となるドラマはSaving Faceやグザヴィエドランの描く母像やテネシーウィリアムズやShelagh Delaneyのように普遍的だ。
世界中のあまねく物語のなかに出てくるような母娘の愛憎話を極端に風変わりな方法で描いてみせた。

その結果、エブエブは見ている最中は目まぐるしさに没頭するが、見終えて俯瞰してみると人生賛歌を見たように温かい気分になる。

キャラクターはみなスター気配が払拭され、地味に庶民化され、それは観衆に充てているように思える。わたしたちのとるに足りない人生を応援してくれているように見える。

──きみはつぶれかけたコインランドリーをいとなみ、毎度税務署から呼び出しを食らうような崖っぷちを生きている。
連れ合いはお人好しで、父は要介護で、一人娘は反抗的でレズビアンだ。

だけど、そんなことがどうした。

きみは得がたい家族と愛に囲まれている。
なによりきみはこのユニバースにとって特別な存在なんだ。
だから、さあ、元気出して、扶け合って生きよう──とエブエブは言っている、のだと思った。

Danielsの辣腕と心優しいヒューマニズムを浴びる特殊体験だった。