津次郎

映画の感想+ブログ

強面たちの応酬 ジェントルメン (2019年製作の映画)

ジェントルメン

3.6

The Gentlemenはガイリッチーのなかでもロックストック~やスナッチとおなじ文法をもったいわばガイリッチー原点回帰作品になっている。──そうだ。

登場人物が状況を語る構造でワルたちのたくらみと争いが描かれるそれらのガイリッチープロトタイプは海外でとても評価が高い。

が、個人的にはキャッシュトラックのように普通の(というのも変だが)映画然としたガイリッチーのほうがいい。

思うに英語を使う英語圏の人には非英語圏のわれわれとは違った見地があるのではなかろうか。

ロックストック~やスナッチやThe Gentlemenにいまいち乗りきれなかったのは端的に言葉の壁であろう──と思っている。

とはいえつまらなかったわけではない。

ガイリッチーは器用な人でシャーロックホームズのように大衆的なブロックバスターもつくれるしディズニーに招聘されアラジンも任される。ようするにスピリットを持った作家でもあるし商業映画にも対応できる。
Imdb7.8、RottenTomatoes75%と84%だった。

──

引退して妻と静かに暮らすことを望んでいる麻薬王ミッキー(マコノヒー)に群がる魅力的な強面たちの応酬劇。

はじまってすぐに主人公がやられた。──と思ったがやられてなかった。

後頭部に銃口がきて銃声がする。ビールとピクルドエッグが血をかぶる。それでミッキーはおだぶつになり倒叙していくんだと思っていたが、後半でこっち側からレイモンド(チャーリーハナム)が先に撃っていたのが解る。構造を知ればなあんだだけどうまく見せるから引っかかった。

マコノヒーはいかにもイギリス映画に出ている米国俳優の気配だったが、設定でも米国で生まれオックスフォードに進学しめぐりめぐって麻薬王になった男を演じた。
案内役はどこでも何役でも同じヒューグラント。
髭の具合でトムハーディにも見えるチャーリーハナムが男をみせた。
多数の映画で“小男”役を演じてきたEddie Marsanがやっぱり小男を演じた。
いちばんつええと感じたのはコリンファレル。コーチというだけで役名なしのボクシングジムコーチ。組織ではなく堅気だが最悪の状況を全クリする強面感があった。ファレルってほんと巧いよね。

全体としては動機が弱いと思った。

プロットの起点は妻と静かに暮らしたいというミッキーの願いである。かれは何よりも妻を大事にしており冒頭からして今夜デート行こうと妻に電話をかけるわけである。だがミシェルドッカリーはきれいな奥さんではあったが華奢だしなんか意地悪そうだしw麻薬王がぞっこんになるならもっと妖艶なほうがよかった。

ただしこれはガイリッチーの文法ゆえの枷であり観衆の関心がセクシーへ向いてしまう女優や演出を避けているのだ。──という意味では感心した。

根本的なコンセンサスだが映像作品が性的魅力で興味をひくのなら演出はいらない。突き詰めて簡単に言ってしまうと裸をだすなら「作品」である必要はないのだ。むろん俳優たちの性的魅力は映画の大きな魅力ではあるけれどアルドリッチやフランケンハイマーやガイリッチーはそれに頼らない映画づくりを目指してきたわけである。

とはいえ、ミッキーの隠居動機は弱かった。──と思う。

なお本作は中国人の扱いが差別的だと非難された。
白人の中心人物が麻薬取引業とはいえ道徳的に高尚な起業家に描かれるのに比べアジアの密売人はごろつきに描かれる。──とのこと。指摘はもっともだが定型のカリカチュアだとは思う。

冒頭にでてくるピクルドエッグを検索したらイギリスのパブの定番メニューでビールに合うのだそうだ。やってみようと思ったがデイルとかマスタードシードとか知らない材料使うのであきらめた。煮卵でいいや。