津次郎

映画の感想+ブログ

復讐の鬼と化す バレリーナ (2020年製作の映画)

バレリーナ

3.2

イ・チャンドン監督のバーニング(2018)でチョン・ジョンソをはじめて見たとき、こう書いた。

『後からチョンジョンソが初出演だと知って驚きをおぼえた。どこにも出た経験がないらしい。が、堂々としている。カラーも出している。なにをしても牛刀を隠していそうなギラつきがある。
そして、切開し過ぎ(みたい)な超切れ長のひとえがギラりとする。怖い。彼女のそこはかとない怖さが、ミステリアスなバーニングを一層ミステリアスにしていた。と思う。』

バーニングのあとTheCall(2020)でパクシネと共演しているし、A Girl Walks Home Alone at Night(2014)で名をはせたAna Lily Amirpour監督のMona Lisa and the Blood Moon(2021)でケイトハドソンと共演してもいる。ノンキャリアから瞬く間にグローバルな立脚点を掴んだといっていいのではなかろうか。

チョン・ジョンソにはいわくありげな暗さとヒリヒリするような危険さを感じる。
なんか“花嫁はギャングスター”で“鋏組”の組長を演じたシンウンギョンに似ている。ポジションも影がありそうな気配も顔つきもウンギョンを思わせる。
ふたりに共通するのは、ふとしたとき、なんとなく寂しそうなところ。

そう、なんとなく寂しそうなんだわ。イ・チャンドンに抜擢されたのも寂しそうな雰囲気を買われた結果だったにちがいない。

さてバレリーナは復讐鬼と化した女が無双する話。

キムオクビン主演の“悪女”の感じとそう遠くないがスタイルにはこだわらず全員ぶっこ○してヒャッハーする描写に執心している。とにかくクズどもをやっつけるシーンが痛快。

アクション映画にはしばしば“ひとりで相手の組織を全滅させる”というモチーフがあるが殲滅シーンがうまくできているとアドレナリンが出まくって昂揚させてくれる。たとえばリベリオン(Equilibrium、2002)のクライマックスみたいな。本作でも相手(の攻撃)は書き割りみたいに当たんない。ひとりで全員ぶっこ○すのが楽しいのなんの。いい殲滅っぷりだった。

とはいえやられた値にたいして応報かどうかを勘案せず、とにかくなにがなんでもみんなぶっこ○すので、結果的に相手のほうが大損を被る。なんせ復讐鬼なんだから。そのやりすぎは楽しいが、動機に弱さは感じた。親友が性的人身売買にとられて自尽したわけだから、どこまでも復讐してもいいが、回顧シーンに親友との繋がりの逸話がもっとほしかった。誕生日を祝ったとか、一緒に将来を語りあったとか、そういう回想を挿入して憎しみと処罰感情を煽るが、親友ならばもっと具体的な共同体験があってもよかったのではなかろうか。それがなく淡い回想だけなので、復讐動機に弱さが感じられた。タイトルもややズレている。(気がする。)

そうは言っても娯楽作品として過不足のないNetflixパッケージだった。