3.6
ブラックユーモアと淫靡と貪欲とシンメトリカル。トラウマ系エロ絵巻ピーターグリーナウェイ。UNextに初長編映画のThe Draughtsman's Contract(1982)があったので初めて見た。作家の処女作には原石がつまっているというが、確かにこの映画にはコックと泥棒、その妻と愛人(1989)に繋がる素材がすでに揃っていたと思う。
18世紀ぐらいのイギリスの貴族階級。
若く強欲な絵描きネヴィル氏は荘園主のハーバート夫人から、夫の不在中夫へのサプライズプレゼントとして家屋や庭園の絵を描いてほしいと依頼される。
ネヴィルは金だけじゃできないと突っぱね、夫人が性的要求に応じるならという条件をつけた。それが原題の製図業者の契約。
絵画制作の滞在期間中、ネヴィルは夫人をしゃぶり尽くして辟易させ、契約を解除してくれと懇願されるもネヴィルはそれを拒否し、娘とも契約をもって貴族階級を蹂躙する。
が、すべて謀られていたことだった。という話。
ストーリーの時点ですでにピーターグリーナウェイで、それを構図をきめる撮影とバロック音楽で描いていく。
映画は独創的でグリーナウェイという人はひとりでヌーヴェルヴァーグをやっていたようなものだと思うが体力・気力のあるときでないとピーターグリーナウェイを見ようという気にならない、というのはある。
The Cook, the Thief~もThe Baby of Mâconもトラウマのような記憶になっている。ブラックユーモアなんだろうけれど笑えるところのないモンティパイソンみたいな。暴力性と無修正の気配があって無修正とは局部にたいする扱いのことだけではなく「いやそこまで露骨に描いてしまわないでしょ普通」を描いてしまう赤裸々な視点をピーターグリーナウェイは持っている。
絵画に仕組まれた謎解き要素──推理もののようなニュアンスもあるが、人間のgreedとか復讐とかcrueltyみたいなものを描き出すのが狙い。
映画中の絵は絵描きの素養をもつピーターグリーナウェイ自身のものだそうで、絵描きらしい考察もセリフになっていた。
「本当に賢い人はいい画家にはなれないものよ、なぜなら絵を描くためには、ある種の盲目さが必要だから。でも賢い人は目に映らない物事を知る。そして知ることと見ることの間で身動きがとれず創作に集中できなくなる」
なるほど。Imdb7.2、RottenTomatoe97%と85%。
83歳(2025)のグリーナウェイ最新作はダスティンホフマンとヘレンハントが出演しているイタリアを舞台にしたドラマ映画だそうでポストプロダクションをのこしているだけという段階のようだが2025年現在、公開の告知はまだない模様。老齢のグリーナウェイが丸くなるのか尖ったままなのかが気になる。