津次郎

映画の感想+ブログ

色つきが新鮮 ももいろそらを カラー版 (2020年製作の映画)

ももいろそらを [カラー版]

4.0
日本映画をザ日本映画と称して貶すことがありますが、ときどきじぶんの見識が具体性に欠けていると思うことがあります。
(もちろん素人が勝手なことを言っているだけなので、どうでもよろしいことですが・・・。)

「ザ日本映画」にいくらかの具体性を付与するために、ザ日本映画の系譜ではないひと(監督や映画)を挙げます。現代に限ったチョイスです。いま思いついた限りなので網羅性はありません。(挙げられてない人がいるはずですが、そもそもすべてが偏見にみちた個人の見解に過ぎません。)

中村義洋、中島哲也、李相日、是枝裕和、原田眞人、鈴木雅之 ・・・。演出ができる監督は、ザ日本映画ではありません。また、テレビドラマを主軸にしていて、さほど映画監督としての知名度のない演出家──真夏の方程式・祈りの幕が下りる時・罪の声・グッドモーニングショー等々の監督も、ザ日本映画の系譜ではないと思います。(グッドモーニングショーの世評低いですが、個人的には高評価です)
さいきんの傾向として、テレビ畑の演出家の映画が、さらりとザ日本映画を凌駕することが多い気がします。日本映画がアート側から輩出されず、西谷弘福澤克雄土井裕泰君塚良一のようにテレビや技術畑から出る人たちで構成されていたら、日本映画の混迷はなかったはずです。ひとつの結論として、映画をアートだと捉えている人はアウトだと思います。
北野武、庵野秀明、岩井俊二は別枠で、濱口竜介も日本映画にいなかった人です。
氷菓という映画があって、わたし(も)山崎賢人は好きじゃないのですが、世評に反して、わたしには氷菓の実写版がすごくいい映画でした。で、アニメ版も見ましたが氷菓の実写版は、やっぱりいい映画でした。ので安里麻里監督を個人的に買っています。

逆にどんな映画がザ日本映画かと言うと三島有紀子園子温河瀬直美瀬々敬久塩田明彦蜷川実花熊切和嘉高橋伴明荒井晴彦石井岳龍奥田瑛二行定勲石井隆大森立嗣廣木隆一SABU・・・などなど。(行定勲の円卓、熊斬切和嘉の海炭市はいずれもよかったです。ぜんぶ見ているわけではないので、なかにはいいのがあるかもしれません)21世紀の女の子系は言うに及ばす。山中瑶子はフルスロットルでザ日本映画です。深田晃司もふつうの不条理でザ日本映画です。黒沢清はザ日本映画ではありませんが(個人的に)力量がまったくわかりません。

ザ日本映画の見分け方は簡単で、日活ロマンポルノを思わせるとザ日本映画認定です。ふしぎなことですが日活ロマンポルノを知らない世代でも日活ロマンポルノをしてしまう──のがザ日本映画の系譜です(例:21世紀の女の子)
(ザ日本映画にたいして昭和感(時代遅れの印象)と同時によくおぼえるのが「それは映画でやることじゃない」の気配──です。松本人志の映画を、わりと面白く見ました。だけど、なんていうか「それは映画でやることじゃない」わけです。奇抜なアイデアではあっても「それは映画でやることじゃない」の印象は、はやいスピードで陳腐化するものだと思います。
若い人が撮影のシステムを知らずに脚光を浴びた結果、強靱なザ日本映画の作家になっていく──そんな悪循環がザ日本映画界にはあるような気がしています。21世紀の女の子なんて、もてはやすのも罪深いと思います。)

ところで、さいきん「あ、これザ日本映画じゃないぞ」の体験は濱口竜介監督でしたが、そのまえはももいろそらをの小林啓一監督でした。注視してきましたが、その後ももいろそらをの感動は得られませんでしたが、ザ日本映画の監督ではありません。

この(オリジナル白黒版の)DVDを持っていてなんども見ています。
カラー版が公開されたことを知りませんでした。ようするにわたしはこの映画を見ていません。が、カラー版告知動画の、極彩色の池田愛を見て衝撃を受け、その勢いでレビューを書いてしまいました。メディア化おねがいします。

わたしはかつて、ももいろそらをのオリジナル白黒版のレビューにこう書きました。

『いったい何度、池田愛をググったかわかりません。この女優の愛すべき下手さは、まるで街頭でニューヨークヘラルドトリビューン!を繰り返し叫ぶジーンセバーグのようにフレッシュな映画的魅力がありました。やっぱりサンダンスは信頼できます。』

かわいい映画です。かわいいとは容姿の形容としてのかわいいではなく、こじんまりとして、しっかり世界観があって、独自性がある──というような意味合いです。池田愛の下手が気にならないどころか、むしろ愛着がわきます。佐藤役高山翼のめんどくさそうな気配もいいです。映画に、映画的アイデアがあります。新聞記事を採点するJK→財布をひろう→佐藤につながる→新聞づくりをさせられる→ゲイがばれる→なんか死んじまう→カラースモークしこむ。すべて小さなできごとですが、オリジナリティがあります。じゃー自首してきますわとかあいかわらずばかかとかロバートパティンソンに噛まれたいわとか──セリフも楽しいです。

ザ日本映画の見分け方は簡単で、日活ロマンポルノを思わせる──と書きましたが、もうひとつ顕著なのは、承認欲求です。映画が「おれの描く世界すげえだろ」の印象を持っています。賞ほしさに身もだえしている気配やオレオレ感があります。(とりわけ園やSABU)そんな外国映画を見たことありますか?ザ日本映画だけがもっている特徴です。

かわいい映画は承認欲求が払拭されていることが前提条件です。ももいろそらをや、たとえばフランシスハに、だれかに褒められたがっている気配がありますか?かわいい映画は、何も望んでいないフォルムを備えています。カンヌどころかサンダンスも──いや、出品しなくてもいいですよ──の無欲が「かわいい」の根拠です。

この映画とフランシスハにはなんの関係もありませんが「かわいい小品」なのでわたしのなかでは似ています。フランシスハは単館からじわじわ拡がった映画なので、おそらくひっそり公開される──立ち位置も似ていると思います。が、個人的にこういった小品こそグランドシネマサンシャインとか最大級の箱で見たいものです。ノアバームバックがカラー化を承諾してももいろそらをとフランシスハのカラー版の二本立てをやったら、最高だと思います。

繰り返しますがわたしはこの映画を見ていません。が、カラー版の告知動画で色つきの池田愛を見て、衝撃を受け、レビューを書いてしましました。すいません。