津次郎

映画の感想+ブログ

♪名曲をテープにふきこんで ミックステープ 伝えられずにいたこと (2021年製作の映画)

ミックステープ 伝えられずにいたこと

3.3
ビバリーは遺児でおばあさんに育てられている。
見落としかもしれないが、両親をうしなった経緯が、えがかれていなかった。
1999年の話だがレトロに主題はなく、父母がつくったミックステープをもとに、少女がじぶんのルーツをさぐろうとする。
父母は生き急いだロックンローラーで、選曲もそれを反映していた。

80年代の終わりごろ洋楽厨だったわたしは好きな曲をあつめて(カセット)テープをつくった。なん本もつくった。
本作のタイトルMixtapeとは、そんな好きな曲をあつめたテープのことだが、珠玉の名曲集をつくろうと意気込んで、高いメタルテープを買いドルビーCで録音した記憶がある人なら、かならず響くセリフがあった。(わたしはノンドルビー派だったが。)

レコードショップの店主Anti役のNick Thuneがこう言う。

『ミックステープは順番通りじゃなきゃ(意味がない)。ミックステープはメッセージだから。作り手から聞き手へのメッセージであり、曲順もその一部だ。微妙な間やテンポの変化、フェイドアウト、フェイドイン、すべて大切なんだ。』
(映画より)

わたしは孤独な洋楽厨でひとりで調べひとりで探してひとりで集めてひとりで聴いていた。とくに珍しいこととも、寂しいこととも思わないが、おんがくをだれかと共有した経験がない。必然的に、だれかに聴かせようとしてミックステープをつくったこともない。

ただし。

好きな曲を集めてテープにするとき曲順に(ものすごく)こだわった。悩み抜いて決めた。わたしにとって名曲集=MixtapeはSgtペパーズやヴァンダイクパークスとおなじトータルアルバムでなければなかったからだ。最初から最後まで全曲を通して聴くことが無類の価値を持っていた。フェイド/アウト/インはもちろん秒未満のポーズやバイアスが掛けられる高級なカセットデッキを使って録音し、何時間もかけて曲名/アーティスト名のインデックスをていねいに書いた。あの当時それらの作業はしぬほど楽しかった。

イージュー☆ライダーに「名曲をテープに吹き込んで」という一節があるがMixtapeづくりはおそらく世代が共有した原体験だった。わたしたちはもじどおり名曲をテープに吹き込んできたのだった。映画はそれを思い出させた。

旧世代を描いているわりに学園部分は若年層向けな感じ。2000年問題が出てくる映画ならもっと積極的なレトロアピールがあってもよかった。John Carney世代なのは、肌感ででわかる。わかっている大人がつくった映画だったと思う。

ビバリーはむかしのアビゲイルブレスリンに似ていた。
いじめっこが車いすの障がい者でヒスパニック系。=けたちがいな多様性を感じた。
日本の学園ドラマで車いすのいじめっこがあらわれるまでにあと何年かかるだろうか。