津次郎

映画の感想+ブログ

家族への憧憬 ベイビー・ブローカー (2022年製作の映画)

4.0

とても見たかった。

ゆるいしあまい。
リアリティは置いてメルヘンをとりにいった感じ。

登場人物全員の素性がふわふわしている。生活の気配がない。ふたりの刑事なんか、ほとんど買い食いしているだけw。

でもいい。絵がとてもキマる。どのカットも是枝映画史上最高に映える構図だった。

演者たちは言うに及ばず。ちょい役のイ・ドンフィさえしっかり爪痕をのこした。
が、個人的に最優秀男優賞はヘジン君だった。

ヘジン君は捨てられ養護施設で育った。
養子としてもらわれる年齢の上限とされる6歳を過ぎて8歳、“施設の売れ残り”だった。
いつもヘジンと名前をいれたぼろぼろのサッカーボールで遊んでいる。
サンヒョン(ガンホ)に会うと僕を養子にしてと言う。
ドンス(ドンウォン)にお兄ちゃんと甘え、ソヨン(IU)にお姉ちゃんと甘える。

ワンボックスに忍びこんで周旋業の道連れになる。
洗車機をくぐっているとき窓を開けて水びたしになった。
みんなが笑った。
ヘジン君にとって「家族」っぽい思い出はそれだけだった。
ほかには何にもしらない。

遊園地の観覧車に乗りたいと言ったが、遊園地の観覧車に乗ったことはなく、そもそも高いところは怖かった。
だから観覧車に乗って「洗車場に行きたい」とヘジン君は泣いた。
「お父さん/お兄ちゃん/お姉ちゃん/ウソンとドライブに行き洗車中に窓をあけて水びたしになってみんなで大笑いした」
たとえニセの家族でも愛に飢えたヘジン君の中ではその瞬間だけが楽しい家族旅行の思い出を形成しているのだった。
とても泣けた。

そんなヘジン君をたくみに造形した監督もさることながら、個人的にはかれに男優賞を与えて柳楽優弥の最年少記録を破るのもありだった。

少ない情報量や僅かなセリフを絵(構図)でおぎなう映画だった。(半開きの車窓ごしのペ・ドゥナが映えまくる)
また漠然とした幕引きはゆるさとあまさを抑えていた。

顕著な特長はソヨン(IU)を象徴的に扱っているところ。だと思う。
是枝監督はIUの起用についてマイディアミスターを見て彼女の魅力にハマってしまったと白状していたが、まさに魅了された演出家の視点だった。
おそらくソヨンはもっと蓮っ葉なヤンママ風情のポジションだが、IUに振ったことでミステリアスと、宿命を背負った気配が付与された。つまりソヨンはまんまマイディアミスターのジアン(演:IU)だった。

是枝裕和監督は、韓国で韓国のスタッフと映画をつくった経験をインタビューで述べていた。
それを要約すると、かれらは日本よりも優れた労働環境とシステムのなかで仕事をしている──というもの。
いまさらいうまでもないが日本は後進国だ。

2022年6月14日、是枝裕和監督ら6名が「日本版CNC」設立を求める会を立ち上げ、映画界の共助システムの構築を目指す主旨の記者会見を行った。

是枝監督と、日本映画の鬼才or重鎮たちとのちがいは、じぶんが映画の後進国で仕事をしていることを自覚しているか否か、に他ならない。

もう(園子温or河瀬直美などの)強権的な白亜紀の肉食獣が暗躍する時代じゃないし、ましてや昭和ポルノ出身の化石たちがATG映画をつくる時代でもない──と是枝監督は言いたいのではないか、と個人的には思っている。