津次郎

映画の感想+ブログ

俳優沢田研二の最高傑作 幸福のスイッチ (2006年製作の映画)

幸福のスイッチ [DVD]

5.0
俳優としての沢田研二を、しっかり記憶しているのは、ときめきに死すや太陽を盗んだ男よりもこの「幸福のスイッチ」である。

この映画がいわゆる「日本映画」を凌駕しているのはアートじゃないこと、承認欲求(監督の我)がないこと、お涙頂戴にしていないこと、背伸びしていないこと・・・などなど、だが、ともかく「日本映画」というものが、映画監督が自分のキャリアに箔をつけたいだけのアートくさい映画だらけになったせいで、この「幸福のスイッチ」がどれだけ高潔に見えたことだろう。

きっと、当時も今も、同様の感想を持った/持つ「日本映画に疲弊した観衆」がおおぜいいた/いると思う。まさに一服の清涼剤だった。

相対としてみると、予算も小さく、設定もせまいし、なんら、すごいことはしていない。
でも映画には、得も言われないやさしさがあった。

上野樹里は朴訥で、沢田研二の背中に一生懸命はたらく庶民の生活感が見えた。
くわえて、生意気が丸くなる行程=ドラマツルギーがみごとな曲線を描く映画だった。
正直言って、ばつぐんの演出力だった。

新人監督がいきなり小津とか言い出すのを、たまに聞くのだが、安田真奈監督を学ぶべきではなかろうか。と思う。
また、観衆であるわれわれも、より、まっとうなものを評価したいと思う。
映画にたいする評価には正誤(正しさと誤り)は無いわけなんだけれど、力量は、明確なものだ。それを見分けるリテラシーは持ちたい。